EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(12/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。
初心者に超絶テクニックを強いていませんか?
「うちの子、家で何時間も勉強しているのに、全然成績が上がらなくて……」そう相談に来るご家庭の教材(問題集)を見せていただくと、驚くことがよくあります。
学校の教科書レベルの基礎もままならない生徒が、有名私立高校の入試問題や、応用問題ばかり載っている分厚い問題集を使っていたりするのです。
これは、スポーツに例えるなら、サッカーを始めたばかりの幼稚園児に、いきなりプロのようなオーバーヘッドキックの練習をさせているようなものです。
ボールを蹴る基本もできていないのに、空中で回転してボールを捉えるなんて、できるわけがありません。結果はどうなるか。何度も空振りして、背中を打って痛い思いをして、自信を喪失し、最後にはこう言うでしょう。
「サッカーなんて大嫌いだ! もうやりたくない!」
勉強も全く同じです。自分のレベルに合っていない教材を使うことは、百害あって一利なしです。難しすぎる問題集は、生徒の自己肯定感を破壊し、「自分は頭が悪いんだ」という誤った刷り込みを与えてしまいます。これでは勉強ではなく自虐行為です。
教材のレベルを正しく見極める方法
では、どうやって教材を選べばいいのでしょうか。世の中には星の数ほどの教材があります。大型書店に行けば壁一面に参考書が並んでいますし、ネットを開けば「これが最強!」という口コミが溢れています。
これらは大きく分けて3つのレベルに分類されます。
1. 基礎教材(導入・ドリル): 漫画や図解が多く、解説が丁寧。勉強が苦手な子が最初に手に取るべきはこれです。
2. 標準教材(定着・演習): 公立高校入試レベル。学校のワークや一般的な塾用テストがこれに当たります。
3. 発展教材(応用・難関): 「最高水準」などの冠がつくもの。解説も基本はわかっている前提で簡潔です。
成績が伸び悩んでいる生徒ほど、焦りからか、背伸びをして3番目の発展教材に手を出しがちです。あるいは、親御さんが「これくらいやってほしい」という願望で、難しそうな問題集を買い与えてしまっています。
本棚に、最初の数ページしかやっていない綺麗なままの問題集が眠っていませんか? それはレベル選びの失敗の証拠です。
一番伸びるのは7割解けて、3割間違えるレベル
では、最適なレベルとはどこか。脳科学的にも、モチベーション理論的にも、一番学力が伸びるのは7割解けて、3割間違えるくらいのレベルです。
もし10割スラスラ解けてしまうなら、簡単すぎます。ただの作業であり、脳に負荷がかかっていないので筋トレになりません。逆に、1割しか解けないなら、難しすぎます。解説を読んでも理解できず、ただ苦痛なだけです。
半分以上は自力で解けるけれど、数問はつまずく。でも解説を読めばわかる。このレベルの教材に取り組んでいるとき、学習効率が最大化します。
簡単な問題を馬鹿にしないこと。薄い基礎教材を完璧に仕上げてから、次のステップに進むこと。これが最短ルートです。
「レベルを合わせる」は、教材だけの話ではない
この「7割解けて3割間違える」という原則は、実は教材選びだけの話ではありません。周りにいる仲間のレベルについても、まったく同じことが言えます。
友人や周囲から受ける影響のことを、経済学ではピア・エフェクトと呼びます。
マサチューセッツ工科大学のデュフロ教授ら(2019年にノーベル経済学賞を受賞)が、ケニアの121の公立小学校で行った実験があります。くじ引きで、習熟度別に学級を編成した学校と、通常どおりの学級の学校に分け、比較しました。
結果はこうでした。教員が習熟度に合わせた指導をする限り、習熟度別学級はすべての学力層の子どもの学力を上げていました。そして特筆すべきは、もっとも大きく伸びたのが、もともと学力が低かった子どもたちだったということです。しかも効果には持続力があり、習熟度別学級をやめた後も、1年以上にわたって学力が高い状態が続きました。
理由は、私たちが教室で日々感じていることと一致します。自分と同じくらいの子と一緒だと、他人と比べて意欲を失うことがなく、互いに助け合える。教える側も、理解度とペースに合わせた指導ができる。
一方で、こんなデータもあります。スウェーデンの高校生を対象にした研究では、学力の高い同級生の存在が、学力の低い生徒の自信を喪失させ、大学への進学意欲を失わせていたことが明らかになりました。実際、優秀な友人からプラスの影響を受けるのは、そのクラスでもともと学力が高かった層だけで、中間層や低学力層はほとんど影響を受けないか、むしろマイナスの影響を受けることがわかっています。
「レベルの高い環境に入れておけば、周りに引っ張られて伸びるはず」
多くの親御さんが信じているこの考えは、わが子がその集団の下位にいる場合、逆効果になる可能性があるのです。難しすぎる問題集が自己肯定感を破壊するのと、まったく同じ構造です。
ただし、低学年のうちから細かく学力で分けることには慎重であるべきだという指摘もあります(スタンフォード大学ハヌシェク教授は、学齢が低い時期の習熟度別編成は格差を拡大させうると指摘しています)。要は、背伸びして届く範囲に、教材も仲間も置く。それが原則です。
迷ったときはプロの処方箋を頼ろう
正直に申し上げますと、この適切な教材選びは、プロでも慎重に行う難しい作業です。アマゾンのレビューが高くても、わが子に合うとは限りません。
難しすぎる(または簡単すぎる)場合は、迷わず教材知識のある詳しい人(学校の先生や塾の先生)に相談してください。
我々塾講師は、医者が患者の症状に合わせて薬を処方するように、生徒を診断して、参考書を勧めます。生徒の現状に合わせて適切な処方箋を出すのも我々の大事な仕事です。教材選びは勉強の第一歩。ここを間違えると、その後の努力が全て空回りしてしまいます。
EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。
