先に、いちばん残酷な事実をお伝えします

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(5/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

学力の35%は遺伝で説明できる

エビデンスに向き合うと決めた以上、都合の悪い数字から目を背けるわけにはいきません。ここで、本書でもっとも残酷な事実をお伝えします。

中室牧子氏らが九州大学の山形准教授(行動遺伝学)とともに行った研究では、中学3年生時点の子どもの学力の35%は遺伝によって説明できることが示されています。さらに家庭環境が34%。合わせて約7割です。

何で説明できるか遺伝家庭環境その他
学力(中3)35%34%30%
教育年数27%47%26%
所得30%41%29%

新潟大学の北條准教授らの分析でも、子どもの学力の50%は家庭や本人の要因で決まっており、しかも学校の資源(教員の数、学歴や経験年数、宿題、授業時間といった、外から測りやすい資源)はほとんど統計的に有意な影響を与えていなかったという結果が出ています。

「じゃあ先生は関係ないのか」と思われたかもしれませんが、逆です。外から測りやすい看板はあてにならない一方、同じ免許を持つ教員どうしの「腕」の差は絶大であることが、第1章でご紹介する研究でわかっています。

さらに言えば、東京大学の「学生生活実態調査」(2012年)によると、東大生の親世帯の平均年収は約1000万円。世帯収入950万円以上の学生が約57%を占めます。同じ年の給与所得者1人あたりの平均年収は408万円、2人以上の勤労者世帯でも623万円ですから、いかに突出しているかがわかります。

「子どもを全員東大に入れたお母さんの体験記」が決して語らないのが、この数字です。

それでも、私がこの本を書く理由

ここまで読んで、暗い気持ちになった方もいるかもしれません。「結局、遺伝と家庭環境で決まるのか」と。

しかし、私が本書を書き続ける理由は、まさにここにあります。

第一に、この数字は「あなたにできることは3割しかない」という意味ではありません。ここでいう35%や34%は、集団のばらつきを何がどれだけ説明するかという内訳であって、「介入で動かせる上限」ではないからです。視力の遺伝率がどれだけ高くても、眼鏡をかければ見えるようになるのと同じことです。

そして、むしろ「家庭環境が34%」という数字こそ、本書の存在理由です。親のかかわり方、家の中のルール、環境の設計——本書でお伝えする技術は、すべてこの34%の中身を変えるためのものだからです。動かせないものを嘆く時間があるなら、動かせるところに全力を注ぐ。これは経営でも同じです。

第二に、そして本書の核心に関わることですが、学力テストで測れる能力(認知能力)は、人生の成功を決める要素の一部にすぎないということが、近年の研究で明らかになってきました。

自制心、やり抜く力、社会性、意欲。学力テストでは決して測れないこれらの力を「非認知能力」と呼びます。この非認知能力こそが、将来の年収、学歴、就業形態に大きく影響していることが、いくつもの研究で示されています。しかも、認知能力の改善には年齢的な限界があるのに対し、非認知能力は成人後まで鍛えられるものが少なくないのです。詳しくは第8章でお話しします。

そして第三に、能力の高い指導者は、遺伝や家庭の資源の不利すら帳消しにしうることが、データで確認されています。この根拠は、第1章の【エビデンス・ファイル①】でご紹介します。

私たち大人にできることは、まだたくさんあります。

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生