【エビデンス・ファイル⑤】仕組みが人を変えた——ペリー幼稚園の40年

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(16/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

① 実験の設計

場所:米国ミシガン州 ペリー幼稚園(1960年代開始)

対象:低所得のアフリカ系アメリカ人の3〜4歳児

設計:入園資格のある子どものうち、くじ引きで入園を許可された58人(処置群)と、許可されなかった65人(対照群)を比較

介入内容:修士号以上の専門家による指導/子ども6人に先生1人/午前中2.5時間のレッスンを週5日・2年間/週1.5時間の家庭訪問

きわめて小規模な実験です。それでも世界中で高く評価されているのは、その後およそ40年にわたって追跡調査が行われたからです。

② 40年後に何が起きていたか

処置群(プログラムを受けた子)は、対照群と比べて——

時点指標結果
6歳IQが90以上の割合高い
19歳高校卒業率高い
27歳持ち家率高い
40歳所得高い
40歳逮捕率低い

学歴が高く、雇用と経済状況が安定し、反社会的な行為に及ぶ確率が低い。3〜4歳の2年間の差が、40歳の人生に出ていたのです。

③ そして、いちばん驚くべき事実

ここからが本題です。ヘックマン教授らが詳しく調べたところ、このプログラムがIQに与えた効果は、8歳前後で消滅していました。

処置群と対照群のIQの差は、小学校入学前(4〜5歳ごろ)にはそれなりに大きかったのに、小学校に入るとみるみる縮まり、8歳前後で差がなくなってしまったのです。

学力への効果は、消えた。それなのに、40歳時点の所得と逮捕率には差がついた。

では、何が効いたのか。

答えは、非認知能力です。忍耐力、自制心、社会性、意欲——学力テストでは測れないこれらの力が、この2年間で育ち、40年間その子を支え続けた。詳しくは第8章の【エビデンス・ファイル⑧】でお話しします。

④ 社会全体で見ても「割のいい投資」だった

ヘックマン教授らの推計によれば、ペリー幼稚園プログラムの社会収益率は年率7〜10%(別の研究では13%、17%という推計もあります)。

これは、4歳のときに投資した100円が、65歳のときに6000円から3万円になって社会に還元されているということを意味します。

⑤ ただし、「あの塾に入れたら伸びた」を鵜呑みにしないために

ペリー幼稚園の実験が信頼できるのは、入園者をくじ引きで決めたからです。もし「入園を希望した家庭の子」と「希望しなかった家庭の子」を比べていたら、この結果は意味を持ちませんでした。希望する家庭のほうが、はじめから教育熱心だからです(序章でお話ししたセレクション・バイアスです)。

私たちが日常で目にする「あの塾に入れたら伸びた」という話には、くじ引きがありません。塾の説明会で合格実績を聞くときは、心の中でこう問いかけてみてください。

「その塾に入る前、その子たちはどこにいたのですか?」

—

この章のまとめ(エビデンスの視点から)

本章の主張裏づけ
家庭だけで自学自伸を完成させるのは難しいペリー幼稚園は子どもだけでなく親にも介入し、週1.5時間の家庭訪問で学び方を実演した
だから仕組み(3ゾーン)を設計した40年の効果を生んだのは個人の意志ではなく環境の設計
目先の点数ではなく20年後を見るIQ効果は8歳で消えたが、非認知能力の効果は40歳まで残った
塾の実績は割り引いて読むセレクション・バイアス

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生