EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』より、毎日すこしずつお届けします(35/58)。
脳は省エネの達人
「先生の授業はすごくわかりやすかった! スッキリした!」
そう言って帰った生徒に限って、翌日のテストで点が取れない。第1章でも触れたこの現象、実は脳科学的には流暢性の幻想(Fluency Illusion)と呼ばれる、非常に有名な脳のバグなのです。
人間の脳は、基本的に怠け者です。体重の2%ほどの重さしかないのに、体全体のエネルギーの20%も消費する大飯食らいな臓器だからです。そのため、脳は常にいかにカロリー消費を抑えるか(=いかにサボるか)を考えています。
そこに、プロの講師による流暢でわかりやすい解説が入ってくるとどうなるか。
情報はスルスルと脳に入ってきます。引っかかりがありません。
すると脳は勘違いします。
「お、この情報はスムーズに入ってきたぞ。ということは、すでに理解している情報か、あるいは深く処理しなくてもいい簡単な情報だな」
そして、思考スイッチをOFFにしてしまうのです。
これがわかったつもり(お客様状態)の正体です。
わかりやすいのは、脳にとって負荷がかからない(筋トレにならない)ことと同義なのです。だからこそ、我々はあえて教えすぎないことで、脳の省エネモードを強制解除させているのです。
記憶を最強にする検索練習
では、どうすれば脳は本気で記憶しようとするのでしょうか。
ワシントン大学の心理学者、ヘンリー・ローディガーらの研究によって、最も学習効果が高いとされる方法が明らかになっています。
それが検索練習(Retrieval Practice)です。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、やることは単純です。
「えーっと、なんだっけ?」と思い出そうとする行為のことです。
多くの人は、勉強=知識を入れること(インプット)だと思っています。教科書を何度も読む、ノートを綺麗にまとめる。これらはすべてインプットです。
しかし、脳科学が教える真実は逆です。
記憶が強化されるのは、知識を頭に入れている時ではなく、頭から取り出そう(アウトプット)としている時なのです。
思い出せない苦痛が、長期記憶への招待状
「うーん、この単語、喉まで出かかってるんだけど……なんだっけ……」
この苦しい時間。一刻も早く答えを見て楽になりたいと思うこの瞬間。
実はこの時、脳内ではニューロン(神経細胞)が必死に手を伸ばし合い、記憶の回路を太く強固にしようと工事を行っています。
教科書をただ読み直したグループ
教科書を見ずに、「何が書いてあったっけ?」と思い出すテストをしたグループ
この両者を比較した実験では、後者の思い出すテストをしたグループの方が、圧倒的に長期記憶の定着率が高かったというデータがあります。
答えを見るというのは、脳にとってはカンニングです。脳が汗をかくチャンスを奪っています。
これまでに私が推奨した「15分考えてダメなら見る」というルールや、アウトプットイン(解き直し)は、まさにこの検索練習を強制的に行わせるための仕組みなのです。
海馬の門番を通過させる痛みという通行手形
記憶の司令塔である海馬についても触れました。
海馬は、毎日入ってくる膨大な情報の中から長期保存するものと捨てるものを選別する、非常に厳しい門番です。
では、どんな情報ならこの門番は通してくれるのか?
それは生きていく上で不可欠な情報です。
「ライオンが出た!」という情報は、忘れたら死んでしまうので一発で覚えます。
一方で、「徳川家康が……」という情報は、忘れても死なないので、海馬はゴミ箱行きのハンコを押します。
この海馬に対し、「これは生きるために重要な情報なんだ!」と訴えるための唯一の手段。
それが、繰り返し思い出す(検索する)こと、そしてそこに苦労(負荷)が伴うことです。
「何度も何度も呼び出される(検索される)」
「しかも、呼び出すときに『うーん!』と苦労(負荷)している」
海馬はこう判断します。
「こんなに苦労して何度も呼び出そうとしているということは、これは相当重要な情報に違いない。よし、金庫(長期記憶)に入れてやろう」
結論:テストは採点のためではなく定着のためにある
親御さんはよくテストの結果だけを見て一喜一憂します。しかし、これからは考え方を変えてください。小テストや自学での解き直しは、今の実力を測るための体重計ではありません。
それ自体が、記憶を強固にするための筋トレマシーンなのです。お子様が机の前で「うーん、うーん」と唸っているとき、「早く書きなさい」と言わないであげてください。その苦しそうな時間は、停滞しているのではなく、脳の中で記憶の杭打ちが行われている、最も尊い学習の瞬間なのですから。
EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。
