「一億総評論家」の中で本を書くということ

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(1/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

教育だけが、誰でも語れてしまう

統計学者の西内啓氏は、ベストセラー『統計学が最強の学問である』の冒頭で、こんなことを書いています。

「不思議なもので、教育という分野に関しては、まったくといっていいほどの素人でも自分の意見を述べたがるという現象がしばしばおこる」

耳が痛い指摘です。医療について素人が持論を展開すれば「素人が何を言っている」と諌められますが、教育に関しては誰も止めません。日本人で教育を受けたことがない人はいませんから、全員が当事者であり、全員が経験者なのです。まさに「一億総評論家」状態です。

西内氏は、さらにこう続けます。

「自分が病気になったときに、まず長生きしているだけの老人に長寿の秘訣を聞きに行く人はいないのに、子どもの成績に悩む親が、子どもを全員東大に入れた老婆の体験記を買う、という現象が起こるのは奇妙な事態だとは思わないだろうか」

これを読んだとき、私は正直、背筋が寒くなりました。なぜなら、この本を書いている私自身が、まさに「体験記を売る側」の人間だからです。

「4000人を見てきた私が断言します」。本書の冒頭で、私はそう書きました。しかし、冷静に考えれば、それは私という一人の塾屋が、私の見える範囲で観察した4000人にすぎません。日本の小中高生は1000万人以上います。私が見てきたのは、そのうちの0.04%です。しかも、埼玉県東武東上線沿線という、極めて限られた地域の子どもたちです。

「私の塾では、こうしたら伸びました」。この一文が持つ説得力と、その危うさ。私は、その両方を自覚した上で本書を書かなければならないと考えました。

経験談は、それ自体では証拠にならない

誤解しないでいただきたいのですが、経験に価値がないと言っているのではありません。現場の経験からしか生まれない仮説は、確実にあります。

問題は、経験談が「たまたま」なのか「必然」なのかを、経験談自体は決して証明できないという点にあります。

私が「この方法で伸びた生徒を100人見た」と言ったとします。しかしその裏で、同じ方法で伸びなかった生徒が300人いたとしたらどうでしょう。人間の記憶は、都合のいい事例を選んで残すようにできています。さらに厄介なのは、そもそも「教えない塾」をわざわざ選ぶご家庭が、はじめから自立を重んじる教育方針をお持ちだという可能性です。だとすれば、伸びたのは私の指導のおかげではなく、もともとそういう家庭の子だったから、という説明も成り立ってしまいます。

これを検証するには、経験談とは別の道具が必要です。その道具を持っているのが、教育経済学という学問なのです。

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生