【エビデンス・ファイル①】「いい先生」と「教えない指導」の科学

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(8/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

本章でお話ししたことは、私の現場感覚だけで言っているわけではありません。裏づけとなる研究を紹介します。

① 教員の質は、子どもの1年を丸ごと変える

誰が:スタンフォード大学 ハヌシェク教授(教員の「質」研究の第一人者)

わかったこと:もともとの学力が同程度の子どもたちに対して、

・能力の高い教員が教えた場合 → 1年で1.5学年分を習得

・能力の低い教員が教えた場合 → 1年で0.5学年分しか習得できない

1年間で、丸1年分の差がつきます。ハヌシェク教授はこの結果から、能力の高い教員は子どもの遺伝や家庭の資源の不利すら帳消しにしうると結論づけています。序章でお伝えした「学力の35%は遺伝」という残酷な事実に対する、もっとも力強い反論がこれです。

② 「付加価値」で測ると、下位5%を入れ替えるだけで生涯収入が2500万円変わる

誰が:ハーバード大学 チェティ教授ら(ジョン・ベイツ・クラーク賞=40歳以下の経済学者に贈られる、ノーベル賞に次ぐ栄誉とされる賞の受賞者)

対象:全米大都市圏の小・中学生100万人+納税者記録20年分

わかったこと:

・付加価値(担当した子の成績の上昇幅)は、教員の質を測る指標としてバイアスが少なく信頼できる

・質の高い教員に教わった子は、学力が上がるだけでなく、10代で望まない妊娠をする確率が下がり、大学進学率が上がり、将来の収入も高くなった

・付加価値で下位5%に位置する教員を、平均的な教員に入れ替えるだけで、子どもの生涯収入の現在価値は1学級あたり2500万円上昇する

教員の質は、テストの点数だけでなく、その子の人生そのものに効いています。

③ 「わかりやすかった」で先生を選んではいけない

誰が:テキサス大学 ハマーメッシュ教授ら

わかったこと:授業評価アンケートを分析したところ、美人の先生ほど授業評価が高かった。

身も蓋もない話です。この研究が直接示したのは「評価アンケートの点は、教える力以外のものにも左右される」ということですが、警告としては十分でしょう。「子どもが『あの先生わかりやすい』と言っている」は、教員の質の証明にはなりません。

④ 資格の有無より、同じ資格を持つ人の間の差のほうが10倍大きい

誰が:ハーバード大学 ケイン教授ら(ニューヨーク市のデータ)

わかったこと:教員免許の有無が子どもの学力に与える影響は非常に小さい。一方、免許を持っている教員同士の質の差は、免許あり/なしの差の10倍に達していた。米国には、一流大学の卒業生を教員免許なしで公立学校に派遣する「ティーチ・フォー・アメリカ」という取り組みがあります。マセマティカ研究所のデッカー教授らが、全米5都市17校の小学生2000人を対象に、免許を持つ教員と持たない教員をくじ引きで割り当てて比べました。その結果、免許を持たない教員に教わった子のほうが算数の点数が高く、国語では差がなかったのです。

塾選びに引きつけて言えば、「有名塾かどうか」「教員歴何年か」という看板より、目の前のその先生が、目の前のわが子をどれだけ動かせるかのほうが、はるかに大きな差を生むということです。

⑤ 「手厚さ」への幻想

誰が:テネシー州政府(スタープロジェクト)/ヘックマン&クルーガー/慶應義塾大学 赤林教授ら

わかったこと:少人数学級には学力を上げる効果はあるが、費用対効果は極めて低い。日本のデータで効果が確認できたのは小学校の国語だけ。投資すべきは、密度ではなく設計です。

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この章のまとめ(エビデンスの視点から)

本章の主張裏づけ
すぐわかるように教える先生が良い先生とは限らない授業評価は見た目にも左右される(ハマーメッシュ)
いい先生とは、待てる先生いい先生=付加価値を生む先生。他人ではなく過去のその子と比べる(チェティ)
教員の力で子どもは変わる能力の高い教員と低い教員で、1年に1年分の差(ハヌシェク)
個別指導・家庭教師こそ余白が要る手厚さ(少人数化)そのものの費用対効果は低い(スタープロジェクト/赤林)

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生