意志の力に頼らない環境の作り方

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(14/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

スマホという最大の誘惑を遠ざける

人間の意志力は消耗品です。現代の子にとって、最大の誘惑は間違いなくスマホです。通知が鳴るたびに集中力は途切れ、元に戻るには15分以上かかります。

理性の未熟な子に「意志の力でスマホを我慢しろ」というのは酷な要求です。勉強における絶対条件は、スマホとの物理的な距離です。

「電源を切ってリビングに置く」「親が預かる」など、徹底してください。勉強部屋という聖域に、最大のノイズを持ち込ませてはいけません。

ただし、「取り上げれば勉強する」わけではない

ここで、私自身が長らく誤解していたことを正直に書きます。

私はかつて、「スマホやゲームを取り上げれば、その時間が勉強に回る」と単純に考えていました。しかし、これはデータによってはっきり否定されています。

中室牧子氏が学習院大学の乾教授らと行った研究があります。厚生労働省の「21世紀出生児縦断調査」——2001年生まれの子ども約5万3千人を10年以上追跡した大規模な統計——を使い、テレビやゲームが子どもの学習時間に与える影響を分析したものです。

結果は、こうでした。

テレビやゲームを1時間やめさせても、増える学習時間は、男子で最大1.86分、女子で最大2.70分。

1時間取り上げて、2分です。

正確に言えば、テレビ・ゲームと学習時間の間には確かにマイナスの因果関係があります。しかし、その大きさが、私たちの想像とは桁違いに小さいのです。考えてみれば当然で、勉強に取り組む姿勢そのものが変わっていないのに、テレビとゲームだけを取り上げたら、子どもはそれに類する別のこと——チャット、動画、漫画、ぼんやりする——に時間を移すだけだからです。

「スマホを取り上げる」は、勉強させるための手段としては、ほとんど効きません。

ひとつ断っておくと、この研究が測ったのはテレビとゲームであって、スマホそのものではありません。ただ、「取り上げても別の暇つぶしに置き換わるだけ」という構造は共通していると、私は考えています。

では、なぜ距離を取れと言うのか

それでも私が「スマホは物理的に遠ざけろ」と言うのは、目的が違うからです。

同じ研究では、もう一つ重要なことがわかっています。1日1時間程度のテレビ視聴やゲームは、まったく見ない・やらないのと発達への影響が変わらない。ところが、1日2時間を超えると、子どもの発達や学習時間への悪影響が飛躍的に大きくなるのです。

・1日1時間まで … 問題なし。息抜きに罪悪感を持つ必要はまったくありません。

・1日2時間超 … ここから急激に害が出る。

私が遠ざけろと言っているのは、「勉強時間を増やすため」ではなく、この2時間の線を越えさせないため、そして勉強中の集中を切らせないためです。先ほど述べたとおり、通知が一度鳴れば集中が戻るまでに15分以上かかります。1時間の勉強中に何度も鳴れば、深い集中の時間はほとんど残りません。

ですから、ご家庭でのルールはこう設計してください。

× 「勉強させたいから、スマホを禁止する」

(→ ほとんど効きません。親子喧嘩の割に合いません)

○ 「1日の総使用時間は2時間を超えない。そして、勉強中だけは別の部屋に置く」

(→ こちらは、データが支持しています)

「テレビやゲームは有害だ」という漠然とした思い込みは、その昔「ロックンロールを聞くと不良になる」と言われたのと同じ、時代遅れのドグマです。敵は、テレビやゲームそのものではなく、量と、集中を断ち切るタイミングなのです。

親の背中が最高の環境整備になる

ここで親御さんの覚悟が問われます。子にスマホを禁じながら、親がソファで動画を見て笑っていたら、子は「大人はずるい」と反発します。

子が勉強している時間は、親もテレビを消し、本を読んだり家事をしたりする。家族みんなで頑張る時間という空気を作ることが、言葉で100回言うより効く環境整備です。

強制は、まだ誘惑に勝てないわが子を守るためのサポートです。ルールを淡々と実行することで、子は「今はやるしかないんだな」と諦めがつき、観念して机に向かいます。

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生