経済学者は「実験」をする

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(3/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

治験と同じことを、教育でやる

因果関係を確かめるとき、経済学は医学のやり方を借ります。「治験」です。

新薬に本当に効果があるかを調べるとき、被験者をくじ引きでランダムに二つに分けます。

・処置群(トリートメントグループ)=新薬を飲む人たち

・対照群(コントロールグループ)=偽薬(プラセボ)を飲む人たち

一定期間後、両者を比べる。処置群の治癒率が対照群より高く、その差が「統計的に有意」であれば、その薬には効果があったと言えます。

「統計的に有意」とは、要するにその差が、偶然のブレの範囲を超えているかどうかという話です。学力のばらつきが小さい地域でA校とB校に5点の差があれば、それは意味のある差かもしれません。しかし、ばらつきが大きい地域でC校とD校に10点の差があっても、単なる偶然かもしれない。数字の大小より、その差がブレの範囲かどうかを見る。これが科学の作法です。

この「くじ引きで二つに分けて比べる」やり方を、ランダム化比較試験と呼びます。経済学者は、これとまったく同じことを教育の現場でやっています。本書に登場する研究の多くは、この方法で得られたものです。

なぜ「くじ引き」でなければならないのか

「わざわざくじ引きなんてしなくても、その教育を受けている子と受けていない子を比べればいいじゃないか」。そう思いますよね。これがダメなのです。

たとえば「少人数学級に効果があるか」を調べたいとします。すでに少人数学級を導入している学校と、していない学校の生徒の成績を比べればよさそうに思えます。

しかし、少人数学級の学校をわざわざ選んで子どもを通わせている親を想像してみてください。かなり教育熱心なはずです。学区を調べ、場合によっては引っ越しまでしている。当然、経済的な余裕もあるでしょう。つまり両者は、学級の人数以外のあらゆる点で最初から違っているのです。これを比べても、少人数学級の効果はわかりません。

英語には「それはリンゴとオレンジだ」という言い回しがあります。比べられない二つを無理に比べても意味がない、という意味です。このように、本人や親が「選ぶ」ことによって生じる偏りを、セレクション・バイアスと呼びます。

これは他人事ではありません。「あの塾に入れたら成績が上がったらしい」という評判には、必ずこの偏りが混ざっています。その塾を選ぶような家庭は、もともと教育に熱心なのです。塾の実績なのか、家庭の実績なのか、外からは判別できません。私自身、自分の塾の合格実績を語るときは、この事実を忘れないようにしています。

コピーロボットがいれば話は早い

理想を言えば、こうです。一人の子どもに、まったく同じコピーロボットを用意する。本人には少人数学級に通ってもらい、コピーロボットには通常学級に通ってもらう。数年後の成績の差こそが、少人数学級の純粋な効果です。

「もし、あのとき別の選択をしていたらどうなっていたか」を思い浮かべることを、統計学では反実仮想と呼びます。「本能寺で信長が討たれていなかったら」と考えるのと同じ発想です。

残念ながらコピーロボットは存在しません。しかし、くじ引きで大人数を二つに分ければ、二つの集団は平均的にはそっくりになります。もともとの学力も、親の年収も、家庭環境も、平均で見れば同じ。違うのは、くじに当たったかどうかだけ。これが、コピーロボットの代わりになるのです。

だから経済学者は、面倒でも、くじを引くのです。

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生