EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』より、毎日すこしずつお届けします(2/58)。
「平成2年の創業から36年。私が代表を務めるEIMEI教育グループ全23校舎で、延べ4000人以上の生徒をみてきました。その4000人を間近で見続けてきた私が、教育業界の常識に真っ向から反対し、断言します——『丁寧に教えれば教えるほど、子どもの成績は下がる』と」
これが、本書でお伝えしたい結論です。
「は?」と思われたかもしれません。「丁寧に教えるのが、教育じゃないの?」と。ええ、そう信じられています。だから、世の塾は『親切丁寧』『わかるまで何度でも』『マンツーマンで手厚く』をウリにします。保護者の方も、その言葉に安心して、高い月謝を払います。
しかし、その『親切丁寧』こそが、お子さんから最も大切なものを奪っているのだとしたら——あなたは、信じられますか?
信じがたい話に聞こえるかもしれませんが、これは塾の面談室で、私が毎週のように目撃してきた光景の話です。
面談室で繰り返される「あんなに教えたのに」という悲劇
塾の面談室で、悲痛な表情を浮かべる保護者の方からこんな相談を受けることがよくあります。「先生、うちの子、いくら勉強を教えても成績が上がらないんです……」
お話を伺うと、ご家庭ではご両親がとても熱心に勉強を見てあげているとのこと。「わからない問題があれば、一緒になって時間をたっぷりとって、わかるまで丁寧に教えてあげています。その時は本人も『わかった!』と笑顔で頷いて、宿題も全部正解にして学校や塾に持っていくんです。それなのに、いざテストになると全く点数が取れなくて……」
実は、こうしたご相談は決して珍しいものではありません。むしろ、親御さんが教育熱心で、子どもが困らないように手取り足取り優しく教えているご家庭ほど、この「どうやっても成績が伸びない沼」にハマってしまっている姿を、私は数え切れないほど見てきました。
丁寧に教えるほど、成績が下がるという残酷な真実
高いお金を払って塾を選ぶ際も、多くの保護者は「わからない問題があれば、すぐに先生が丁寧に教えてくれる塾」を求めます。子どもがつまずいた時、横にぴったりと寄り添い、答えへの道筋にある石ころを全て取り除き、綺麗に舗装してあげる。それが理想の教育の姿だと信じているからです。
しかし、冒頭で申し上げた通り、私は長年の指導経験から、その逆の結論にたどり着きました。
親や先生がわかりやすく噛み砕いて説明し、手厚くサポートすれば、確かにその瞬間、子どもは「スッキリした!」「わかった!」と満足そうな顔をします。しかし数日後、あるいはテスト本番で全く同じ問題を出してみると、驚くほど手が止まってしまうのです。あんなにたっぷり時間をかけて丁寧に教わったはずの時間が、まるで幻だったかのように、自分一人では何もできなくなっています。
愛情たっぷりに教わった子どもが、なぜ、いざという時に力を発揮できないのか。「わかりやすく丁寧に教える」ことの裏側に、一体どんな恐ろしい落とし穴が潜んでいるのか。詳しいメカニズムは第1章でお話ししますが、ヒントだけお伝えするならば、大人の「困らせたくない」「転ばせたくない」という親切心が、子どもから"ある大事なもの"を奪ってしまっているからです。
塾や先生は魔法使いじゃない
「塾に入れば必ず成績が上がる」「プロに任せれば何とかしてくれる」と信じ切っている保護者の方がいらっしゃいます。しかし、塾は魔法使いでも、超能力者でもありません。むしろ、そうであってはいけないのです。なぜなら、魔法が解けた瞬間に、その子は何もできなくなってしまうからです。
「この塾のおかげで点数が取れた」「あの先生がいないと勉強ができない」。一見嬉しい言葉のように聞こえますが、この感謝の裏には「依存」が隠れています。薬がないと生きられない状態にしてはいけないように、塾がないと勉強できない状態にしてはいけません。我々の仕事は、生徒を塾に通わせ続けることではなく、最終的に「塾がいらない状態」にすることなのです。
そして到来したAI時代。「教えられる」だけの人間は淘汰される
さらに今、子どもたちの未来を考える上で、絶対に避けては通れない現実があります。生成AIの台頭です。
「丁寧に教える」「わかりやすく解説する」「答えまでの道筋をきれいに舗装する」——これまで世間が良いとしてきた過保護な指導は、皮肉なことに、AIが最も得意とする領域です。
スマートフォン一つあれば、どんな難問でもAIが瞬時に、人間の先生よりもはるかに流暢に、24時間365日、文句一つ言わずに解説してくれる時代になりました。これは、究極の「過保護な先生」が全員のポケットに入っている状態を意味します。
もし、子どもが「わかりやすく教えてもらい、言われた通りに暗記し、パターン通りに処理する」という、受け身の「お客様状態」のまま大人になったらどうなるでしょうか?
知識の量や、与えられたマニュアルを正確にこなすスピードで、人間がAIに勝てる日は二度と来ません。「教えてもらわないと動けない」「正解を与えられないとフリーズしてしまう」人間は、これからの社会で容赦なく代替されていきます。
第8章でも詳しく触れますが、AIという圧倒的な知能を「使いこなす側」になるのか、それとも「使われる側」に転落するのか。その分かれ目はたった一つです。「自分の頭で考え、自ら問いを立て、答えのない未知の課題に泥臭く立ち向かう力」を持っているかどうかです。
AIがすぐに正解を出してしまう便利な時代だからこそ、あえて立ち止まり、自分の頭に負荷をかけて考える経験の価値が、過去最高に高まっているのです。
「教えすぎない」は本当に難しい。だからこそ共に学びたい
ここまで偉そうに教育論を語ってきましたが、私自身、プライベートでは3人の子どもを育てる一人の親です。
塾という現場で長年、「保護者の皆さん、子どもには教えすぎず、待つ勇気を持ちましょう!」と熱く語っている私ですが、いざ家に帰り、我が子の宿題に向き合うとどうなるか。……これがなかなか、理想通りにはいきません。
「なんでこんな簡単な問題でつまずいているんだ」「あと5分で出かける時間なのに、なぜまだ準備が終わっていないんだ」。焦りや愛情から、つい「こうすればいいでしょ!」「早く〇〇しなさい!」と先回りして口出しをしてしまい、後になって寝顔を見ながら「また今日も待てずに教えすぎてしまった……」と猛省する。そんな日々を送り、SNSでも度々弱音をこぼしている、皆さんと同じ泥臭い一人の父親です。
他人の子なら冷静に待てるのに、我が子となると感情が入ってしまい、待てなくなる。だからこそ、世の保護者の方々が「つい教えてしまう」「先回りして手助けしてしまう」という、愛情ゆえの葛藤と焦りが、私には痛いほどよくわかります。親が「教えすぎない勇気」を持つことは、口で言うほど簡単ではないということを、私は身をもって知っているつもりです。
本書は、決して「完璧な教育論を上から目線で押し付ける本」ではありません。
プロの教育者としての指導経験と、3児の父としてのリアルな失敗や試行錯誤。その両方を持つ私だからこそ伝えられる、「親が本当に持つべき勇気」と「具体的なメソッド」をまとめた、皆さんと共に悩み、共に歩むための一冊です。
一生モノの武器「自学自伸®」を手に入れるために
私が提唱し、掲げている教育哲学。それが「自学自伸®(じがくじしん)」です。
文字通り、自分で学び、自分で伸びる力を指します。
この力は、「これを飲めば成績が上がる」といったサプリメントのような、すぐに結果が出る魔法の杖ではありません。
しかし、一度この「自走エンジン」を積むことができれば、受験はもちろん、社会に出てからも一生涯にわたって子どもを支え続ける最強の武器になります。
なお、本書でお伝えする「自学自伸®」のメソッドは、ご家庭で実践していただくことを念頭に書いています。しかし、家庭の中だけで「自学自伸」を完成させることは、率直に言って非常に難しい。だからこそ、我々はこの哲学を塾という空間の中で完全に再現するため、独自の「明成式学習法」を開発しました。生徒が「問題演習」「シンキングブース」「ティーチング席」という3つのゾーンを物理的に移動しながら学ぶこの学習システムは、現在特許出願中であり、EIMEIグループの個別指導ブランドの校舎で実施されています。詳しくは第5章で解説しますが、本書は「家庭で実践できる自学自伸の知恵」と「塾で本格的に取り組む場合のヒント」の両方を扱う一冊として構成しています。
本書を読み終えるとき、こんな変化があなたのご家庭に訪れるはずです。
・親が「勉強しなさい」と言わなくても、子どもが勝手に机に向かうようになる
・「教えて」と聞かれたとき、答えを言わずに済む魔法の質問返しが使えるようになる
・テストごとに、子どもの成績が右肩上がりで伸びていく
・反抗期で口をきいてくれない我が子と、再び対話できるようになる
・AIに「使われる側」ではなく「使いこなす側」に育てる道筋が見える
この一生モノの力を、いかにして子供たちに授け、育んでいくか。
本書では、「教えないこと」がいかに子どもの脳を動かすかというメカニズムから始まり、その具体的なメソッドと、親や指導者が持つべき心構えについて、余すところなくお伝えしていきます。
覚悟してください。これは、楽をして短期間で成績を上げるための本ではありません。
しかし、お子様が自分の足で人生を歩んでいく「本当の強さ」を手に入れるための、確かな道しるべとなるはずです。
EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。
