【エビデンス・ファイル⑨】「突き放す勇気」を支えるもの

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(24/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

最終章では、親としての心構えをお話ししてきました。心構えの話にエビデンスを持ち込むのは野暮かもしれません。それでも、迷ったときに背中を押してくれる数字を、いくつか置いておきます。

① 「今」の点数ではなく、「20年後」を見てよい理由

ペリー幼稚園プログラムでは、IQへの効果は8歳で消滅したにもかかわらず、19歳の高校卒業率、27歳の持ち家率、40歳の所得と逮捕率に差が残りました(第5章【エビデンス・ファイル⑤】)。

目先の点数が動かないことは、その取り組みが無駄だったことを意味しません。測っている指標が、まだ効果を捉えていないだけかもしれないのです。

「今は根っこを育てている時期だ」。第1章で私が書いたこの一文には、40年分の追跡データという裏づけがあります。

② 環境を変えるという選択肢

どこで:米国5都市で行われた「新たなチャンスへの引っ越し(Moving to Opportunity)」実験

設計:くじ引きで選ばれた貧困世帯に、裕福な地域の家賃が無料になる補助券を提供し、引っ越しを促した。当選した家族(処置群)と当選しなかった家族(対照群)を比較。

結果:引っ越した家族の子どもが窃盗や暴力で逮捕される確率は、引っ越さなかった家族の子どもより統計的に有意に低かった。

英国でも、公営住宅の一部だけが取り壊され、引っ越しを強制された家族とされなかった家族が偶然分かれた事例を使った研究があり、もともと問題行動のあった子どもたちが、引っ越しによって学校に対する態度が前向きになり、問題行動が減少していたことが確認されています。

これは、「悪い友達と離せ」という単純な話ではありません。子ども本人の意志の力だけではどうにもならない環境があるという事実の確認です。もし今、お子さんが置かれている環境の影響があまりにも大きいと感じるなら、転校や引っ越しという選択肢は、感情論ではなく合理的な打ち手として検討する価値があります。

③ 親の言葉より、親の時間

もう一度だけ、本書でもっとも重要なデータを繰り返します。

「勉強しなさい」と言う → 効果はほぼゼロ。母から娘へは逆効果。

「横について見る」「時間を決めて守らせる」 → 効果は大きい。

祖父母・兄姉・親戚が代わりにやっても、ほぼ同じ効果。

この本を閉じたあと、明日から何か一つだけ変えるとしたら、ここです。言葉を減らして、時間を増やす。それが無理なら、その時間を担ってくれる誰かを探す。

④ 最後に

序章で、私はこう書きました。学力の35%は遺伝で、34%は家庭環境で説明できる、と。

残りは30%です。

たった30%と思うか、まだ30%もあると思うか。私は、後者です。そして、その30%の中に、本書でお伝えしてきたすべての技術が入っています。

さらに言えば、学力テストで測れるものは、その子の人生のごく一部にすぎません。自制心、やり抜く力、社会性——ペリー幼稚園の子どもたちの40年を分けたこれらの力は、遺伝でも家庭の所得でもなく、大人のかかわり方によって育てられることが示されています。

私たちにできることは、まだたくさんあります。

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生