【エビデンス・ファイル⑧】非認知能力——AIに奪われない力の正体

EIMEI教育グループ代表・川上大樹の著書『教えなければ子は育つ ― AIに負けない「考え抜く力」を授ける見守り術』エビデンス増補版より、毎日すこしずつお届けします(21/26)。増補版では、中室牧子『「学力」の経済学』をはじめとする教育経済学の研究を各章に織り込みました。この連載では、増補版で新しく書き下ろした「根拠」の部分をお届けします。

① 非認知能力とは何か

学術的には、次のように整理されています。

学術的な呼称平たく言うと
自己認識自分に対する自信がある、やり抜く力がある
意欲やる気がある、意欲的である
忍耐力忍耐強い、粘り強い、根気がある
自制心意志力が強い、精神力が強い
メタ認知ストラテジー自分の理解度・状況を把握できる
社会的適性リーダーシップがある、社会性がある
回復力と対処能力すぐに立ち直る、うまく対応する
創造性創造性に富む、工夫する
性格的な特性外向的、好奇心が強い、協調性がある、誠実

第3章でお伝えした「質の高い質問ができるか」は、この表のメタ認知ストラテジーそのものです。本書が一貫して鍛えようとしてきたのは、学力ではなく、この能力群だったとも言えます。

② マシュマロ実験——4歳の自制心が、高校の成績を予測した

誰が:コロンビア大学の心理学者 ミシェル教授

対象:スタンフォード大学内の保育園の4歳児186人

方法:子どもの前にマシュマロを1つ置き、「いつ食べてもいいけれど、大人が戻ってくるまで我慢できたら2つ食べられます」とだけ伝えて退室。15分後に戻る。

結果:186人のうち約3分の1が15分間我慢し、3分の2は食べてしまった。追跡調査の結果、我慢できた子は、高校生になったときのSAT(大学進学適性試験)のスコアがずっと高かった。

ただしこれは、追跡調査で観察された相関です。近年の追試では、家庭環境を考慮すると関係が小さくなることも報告されています。「4歳の我慢で人生が決まる」とは読まないでください。

③ やり抜く力(GRIT)——才能とは無関係

誰が:ペンシルバニア大学 ダックワース准教授

定義:「非常に遠い先にあるゴールに向けて、興味を失わず、努力し続けることができる気質」

わかったこと:陸軍士官学校の訓練に耐え抜く候補生は誰か、全国スペリングコンテストで最終ラウンドに残る子は誰か、貧困地域に配属された新米教師のうち最も子どもの学力を上げるのは誰か——まったく異なるこれらの状況で、「やり抜く力」の高い人が成功していた。

そして重要な発見が一つ。才能とやり抜く力の間には、相関関係がない。才能があってもやり抜く力がないために成功に至らない人が、少なからずいたのです。

④ 学力が同じでも、人生の結果は変わる

誰が:シカゴ大学 ヘックマン教授/プリンストン大学学長も務めたボーウェン教授

わかったこと:

・高校に通わずに一般教育修了検定に合格した人は、高校を卒業した人に比べて年収も就職率も低い(ヘックマン)。認知能力が同程度なら差はつかないはず。つまり差は非認知能力から来ている。

・米国の大学の中退率は40%近い。中退せずに卒業できたのは、SATの成績がよかった学生ではなく、出身高校のレベルにかかわらず高校の通知表の成績がよかった学生だった(ボーウェン)。通知表には、締め切りを守る、授業で発言するといった非認知能力が反映されているからです。

⑤ 日本のデータ:しつけを受けた人は年収が86万円高い

誰が:神戸大学 西村教授ら

わかったこと:「ウソをついてはいけない」「他人に親切にする」「ルールを守る」「勉強をする」という4つの基本的なモラルを親から教わった人は、まったく教わらなかった人と比べて年収が86万円高かった。

ただしこの86万円は相関であり、しつけをする家庭が持つ他の資源の影響を含みうる数字です。そのうえで、山形大学の窪田准教授らの研究では、しつけが子どもの勤勉性に因果効果を持つことが示されています。しつけは道徳の話ではなく、勤勉性という非認知能力を育てるプロセスなのです。

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この章の結論(エビデンスの視点から)

AIが代替するのは、知識の量と、パターン処理の速さ——つまり認知能力の一部です。

AIが代替できないのは、目標に向かって粘る力、誘惑に耐える力、他者と協働する力、失敗から立ち直る力——つまり非認知能力です。

そして本書がお伝えしてきた「待つ」「教えない」「悩ませる」「習慣化する」は、すべて非認知能力を育てるための技術でした。

ここで一つ、本文では触れなかった提言を加えます。目の前の定期試験で数点を上げるために、部活や生徒会をやめさせることには、慎重であるべきです。学力をわずかに上げる代わりに、長い目で子どもを助ける非認知能力を育てる貴重な機会を、奪ってしまうことになりかねないからです。

EIMEIグループ(エイメイ学院・明成個別・EIMEI予備校)では、この「自学自伸」の考え方で子どもたちの学びを見守っています。無料体験・ご相談はお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生