「あの塾はダメだ」悪い噂を広めたのはまさかの・・・

 

※ちなみに、自分でこの文章まとめていて、涙流れてますからね。笑

~「あの塾はダメだ」~3部作の完結編です。

 

塾生の数名が関わる集団万引き事件が起きた(前回までの話)。

生徒たちも心から反省し、相手のお店にも謝罪と償いをし、許してもらい、被害届けを取り下げて頂くことができた。

関わった生徒たちと保護者様を交えての話し合いの2日後、

コウタが、直接謝りたいと言って、お母さんと一緒に塾を訪れた。

コウタのお母さんが言った

「この子、あの夜から、何も食べられないくらいショックを受けていて、当然、この子が悪いんですけど、、、」

確かにコウタは病人のような顔つきになっていた。目の下のクマの酷さから、睡眠も十分とれていないのだろう。

そして続けざまに思いがけないことを聞いた。

「実は、ミキ(コウタの姉、塾の卒業生で俺の教え子でもある)、が、コウタのこと引っ叩いたんです。『エイメイを何だと思っているの!?あんたはエイメイを、先生たちを傷つけたのよ!』って。ミキが泣きながらコウタのことを叩いたんです。今までずっと優しいおねえちゃんだったので、叩くなんて初めてのことだったので、コウタも随分こたえているんです。」

卒業生のミキの塾に対する想いを知って、俺は本当に嬉しくなった。と同時に、改めて責任を強く感じた。

「そうか。コウタ、お前は本当に真面目な男だからな。お前の気持ちはわかる。しかし、やってしまったことをしっかりと反省し、謝罪したじゃないか。

もう忘れろ、とは言わない。
でもな、子どもってのは、大なり小なり失敗をする。だから子どもなんだ。

今回、お前は大きな失敗をした。しかし、結果的にそこから学んだことも大きい。それを忘れずに、今度はお前がどうやって更生し、迷惑をかけたのに許してくれた人たちに恩返しをしていくか、が大事だ。

いつまでも気にして落ち込んでいても仕方ない。しっかりと前を向いて進まないといけないんだ。」

コウタは涙をぬぐい、力強く返事をした。

「・・・・はい!本当にすみませんでした!!」

その日から、普通に食事ができるようになったと、お母さんから連絡をもらって安心した。

そんなことがあってから、さらに1週間後のことだ。

事件を起こした生徒たちとその保護者様と何度も話し合い、被害のあったお店の店長さんとも話し、警察署にも何度も相談に行った。

さらに、まだ対応しないといけないことがあった。

「学校」だ。

 

地元の中学校では、関わった生徒を順番に何度も呼び出し、校内聞き取り調査が行われていた。

その際に、万引きした生徒たちの数名が、うちの塾のメンバーだったことから、塾への責任を追求するという話が出て、「塾の先生は把握していたのに注意しなかった」など事実ではないことを学年主任の先生が言い始めて、生徒たちへそのように誘導尋問していたようだ。

しかし、コウタのお母さんや、他の生徒たちが、

「塾の先生は出来る限りのことをしてくれた。塾に責任追及をしないで欲しい」と言ってくれたようだ。

なんとも複雑な心境だが、涙がでるほど嬉しかった。

公式に学校からの責任追及はなかったのだが、その数カ月後思いもよらないことを卒業生の保護者様から教えてもらった。

「あの塾に行くと不良になる。問題児ばかりだ。集団万引き事件も、あの塾の生徒たちだ。」とのウワサが広がっている、ということだった。

悪いウワサ自体は覚悟はしていたので、真摯に受け止めるつもりだった。何年かかっても地域の信頼を取り戻すために、良い教育をしようと思っていた。

しかし思いもよらなかったのは、そのウワサを広げているのが、なんと学校の先生だったのだ。

ある先生がクラスの保護者懇談会で言ったとのことだった。さらに雑談程度だろうが生徒たちに通っている塾を聞いて「あの塾はダメだ。」

と生徒たちに直接言っているとのことだった。

俺はとても虚しくなった。

法的措置も考えた。

だが、生徒や保護者様が味方になって、必死になって抗議してくれたというので救われた。

今だから言えるが、俺は抗議文を書いていた。実際に送ることはなかったが・・・

——引き出しに眠る手紙——
○○先生がうちの塾のことを悪く言っているということを多方面から聞きました。誹謗中傷、営業妨害で訴えることまでは致しませんが、お手紙で失礼致します。

「あの塾に入ると問題児になる」という根拠のないウワサは、我々のみではなく、今うちの塾に好きで通ってくれている生徒を傷つけます。

塾のことを信頼して預けて下さる保護者様にも失礼ではないでしょうか。

 

なにより、あの事件からたくさんのことを学び、成長した生徒達を傷つけます。

確かに生徒たちは間違いを犯しました。しかし、彼らなりに深く反省をし、謝罪をし、出来る限り償ったにも関わらず「問題児」だと一蹴してしまうような言い方には疑問を感じます。

一度でも過ちを犯したら、もうそのレッテルを貼られてしまうことに憤りを感じております。

未熟な我々へのご指導がおありでしたら、「ウワサ話」ではなく、直接お願い致します。

○○先生のご意見を直接お伺いする機会をいただければ、喜んで参上いたします。いつでもお呼び出しください。
————————

この手紙は、送ることをやめ、引き出しの中に今でも眠っている。

さて、話を戻そう。

当然、子どもは未熟である。大小の差はあるが、必ずと言って良いほど失敗や過ちを犯す。

学校は、責任を回避したかったのだ。塾のせいだと遠回しに、時に直接、言っていた。

その『教育をするための学校』は何をしてくれたんだ?

たった一度過ちを犯してしまった子どもたちを見捨てるような発言をしなかったか?

形式的に反省文を書かせるだけで、彼らの更生のために体を張った先生がいたか?

それが教育か?

本人が反省して、しっかりと謝罪償いをして、それでも見捨てるのが教育か?

ある程度の失敗を許容し、教育者や保護者が力を合わせて失敗から学ばせて、未熟者たちを社会に適応できるように成長させていくのが教育なのではないか。

残念なことに、悪いウワサを聞きつけた、一部の保護者様からお電話も頂いた。

「あの事件の犯罪者たちを辞めさせないのか?うちの子にも悪影響があるから、辞めさせないのなら、うちの子が辞める。同じことを思っている親が何人もいますよ。」

とても率直なご意見だった。

「はい。保護者様からのご意見はごもっともで、真摯に受け止め、塾の職員全員で真剣に話し合います。

しかし、一度でも過ちを犯してしまった生徒は放り出す。そんなのは教育現場のすることではないと思っております。

反省をしてやり直したいという生徒たちならば、最後まで責任を持ちたいと思っております。

これが僕らの教育方針です。ここから生徒は学び成長していきます。たったひとりでも生徒は見捨てるつもりはありません。どうかお願い致します。お見守りいただけませんでしょうか。」

と立場もわきまえず、俺はその想いをしっかりと伝えたが

ガチャンと電話は切られた。

ところが、心配をよそに、それにより塾を辞めた生徒は一人もいなかった。

本当に大変だった。まだ24才の俺には相当な試練だった。

でも、卒業式の時の「問題児(大切な生徒)」たちからの感謝の言葉は一生忘れられない。

卒業してから、たくましくなって塾に訪れた時の表情は忘れられない。

さらに彼が親となって、産婦人科の待合室で遭遇したときの奥さんからの「旦那が本当にお世話にったと聞いております」って言葉も忘れられない。

あいつらを辞めさせないで良かった!と心から思いました。

変な言い方ですが、真面目にしっかりと勉強に取り組んでいた生徒たちと同じくらい素晴らしい生徒達でした。

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以上。3話にまたがり、超大作をお読みいただきありがとうございました!

この記事を書いた人

HIRO 川上ヒロ先生