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第1話 命を懸けた男との出会い
「先生は、これから半年の間、命を賭けて君たちと接する。
この12人のクラスの中で、たったひとりでも退塾者が出た時には、
この俺も辞表を出す。 首を賭けてお前達と勝負する。 魂と魂の約束だ。」
これが、僕と先生との出会いでした。 「きれいごと言いやがって。
かっこつけたこと言いやがって。」 僕の最初の感想でした。
そのころの僕は、いや僕たちはどうしようもないワルでした。
塾でタバコは吸う、帰りに万引きはする、学校はしょっちゅう休む、
暴力事件は起こす、といった毎日でした。
塾にも行ったり行かなかったりといいかげんな日々を過ごしていました。
そしてこの12人のクラスに、僕と同じような連中が集まりました。
僕たちがあまりにも言うことをきかないので、担当の先生も
2ヶ月続いたことがありませんでした。
そんな9月のある日、僕たちの前に、先生が現れました。
僕が中2の時でした。 どうせまた1ヶ月くらいで辞めちゃうのだろうと思っていました。
ところが、この人は違いました。
一言一言に、そしてひとつひとつのことに、魂が込められていました。
本気だったのです。 先生のことを何度も殴りました。
先生に何度も殴られました。
ゲームセンターで遊んでいて、塾に行くのをさぼっていた僕たちを、
体をはって力ずくで僕らを塾に連れて行こうとして、ゲームセンター内、
大乱闘になってしまったことは、今でも僕らの中では、語り草となっています。
恥ずかしながら、最近知ったのですが、あの時僕たちと先生の乱闘のせいで、
ゲームセンター内のゲーム機全部壊してしまった弁償代を、
先生がおひとりで払ってくださったそうで、大変申し訳ございませんでした。
さて、そんなこんなで、先生は、クラスの女子にも男子にも
真っ向勝負をしていきました。 気づくと、2ヶ月たち、3ヶ月たち、
そして僕たちも12人きちんとそろう日が多くなっていました。
倉田先生は僕たちの前で、いつも強く、そしてやさしかったです。
また、先生はよく僕たちに 「夢」 を語ってくれました。
『「夢」 見たものは必ずかなう』、『人間死ぬ気になってやれば、何だってできる』 と、
何度も何度も僕たちの前で言っていました。
僕らは自然にタバコも吸わなくなり、ふつうの中学生に戻り始めました。
そしてその頃、先生とのお別れの日がやってきました。
中2の一番最後の授業の日のことでした。 先生は言いました。
「みんな、半年間ありがとう。 今日で先生はこの塾を辞める。
みんなとも今日でお別れだ。」 と。 そうなのです。
先生は初めから、半年間という約束で僕たちのクラスを引き受けたのです。
先生はその時大学3年生。
次の4年生で、教育実習に行かなくてはならなかったのです。
先生は言っていました。 自分は器用な人間ではないので、教育実習と塾とを、
両方一度にはこなせない。 どちらかおろそかになってしまう可能性がある。
当時、学校の先生になるというのが、先生の夢でした。
そのためにはどうしても、大学4年の時に教育実習というのを
約2週間受けなくてはならなかったのです。
そのために先生は最初からの予定通り、今日で辞めるとおっしゃったのです。
クラス中みんなが泣き始めました。 僕たちは泣くしかなかったのです。
なぜなら、それが先生の夢ならかなえてもらいたいし、
でも先生と別れたくないし・・・。 一言も言葉にできずに、ただ、泣いていました。
そんな中で口火を切ったのが、田中でした。 「先生行かないでくれよ。」
続いて安達が言いました。 「先生、俺たちをおいてかないでくれよ。」
もうここからは各自思い思いの事を言い始め、
最後に僕が、「俺たち12人の夢、最後まで見とどけてください。」 と言って、
僕ら12人の思いを結局全部先生に言ってしまいました。
先生は大粒の涙を流しながら、僕たちひとりひとりの思いを
一生懸命聞いてくれました。
そしてしばらく目を閉じてじっと考えていました。
次の瞬間、先生は目を大きく開け、瞳を輝かせて、こう言いました。
つづく・・・ 当時中2のワルだった、滝沢賢:著
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